静岡県熱海市、熱海銀座。観光客で賑わうこの街の一角に、ほっとひと息つける場所があります。お休み処「熱海銀座 和べんち。」さん。休憩スペースをはじめ、軽食やドリンク、さまざまな設備が用意されており、旅の途中に少し足を休めることのできる、温かな場所です。今回、こちらのホームページを制作させていただきました。制作にあたって私が意識したのは、何か新しいものを付け加えることよりも、すでにそこにある魅力を、いかにWebサイトという別の形で表現するか、ということでした。お店には、お店だけの色があります。それは看板の色であったり、畳の質感であったり、そこに流れる空気であったり。そうした目に見えるもの、あるいは目には見えないものを、一つひとつ拾い集めながら、今回の制作は始まりました。
お店の世界観を知る
まずは、実際のお店を知ることから。店内に足を踏み入れると、そこには畳をはじめとした和の要素が随所に見られ、どこか懐かしく、落ち着いた空間が広がっています。1階にはカウンターがあり、2階にはゆったりと過ごせる広間、3階には個室も用意されています。それぞれの空間には異なる表情がありながら、どこか共通した「和」の雰囲気が流れていました。私は、Webサイトもまた、一つの空間であると思っています。画面の向こうにあるのは、単なる文字や画像の集合ではありません。訪れた人が何かを感じ、情報を受け取り、ときにはその場所へ足を運ぶきっかけとなる、小さな入口のようなものです。だからこそ、実際のお店とWebサイトが、まるで別の場所になってしまっては少し寂しい。お店で感じた温かさを、画面の向こうでも感じてもらいたい。そんなことを考えながら、デザインの方向性を探っていきました。
既存の看板から、色を考える
さて、デザインを考えるうえで、最初の手がかりとなったのが、お店の看板。すでに設置されていた看板には、和べんちさんらしい色合いが使われています。私はその色を参考に、ホームページ全体のカラーパレットを組みました。新しいWebサイトをつくるからといって、何もかも新しくする必要はありません。むしろ、すでにそこにあるものの中にこそ、そのお店らしさが宿っているという古い?(笑)考えなので。看板の色をWebサイトにも取り入れることで、画面の中と実際のお店との間に、一体感(統一感と言っても良いかな)が生まれます。ホームページを見てからお店を訪れた人が、ああ、ここだ、と自然に感じられる。そんな小さな一致を、大切にしたいと思いました。
お店の看板
「和」をWebデザインに落とし込む
色が決まれば、次は形です。「和」を表現するには、どのようなデザインがよいだろう。畳、障子、襖、格子、和紙……。いろいろと考えた末、最初に思い浮かんだのが「のれん」でした。実際にお店の入口にものれんが掛かっています。あの、布をくぐって店内へ入る感覚。それをWebサイトでも表現できないだろうか。そう考え、まずはページの冒頭にのれんを配置したデザインを制作しました。
お店の玄関
一番最初のデザイン
ところが、どうにも納得がいかない。確かに和風ではある。のれんもある。けれど、何かが違う。デザインというものは不思議で、必要な要素が揃っていても、それだけで一つの作品になるとは限りません。あれこれ眺めているうちに、ふと思いました。いっそのこと、メインビジュアル全体を、大きなのれんに見立ててしまえばよいのではないか。そうして構成を組み直してみると、これがなかなか、しっくりきたのです。のれんを単なる装飾として置くのではなく、ページそのものの形に取り込む。ようやく、表現したかった「和」に少し近づいた気がしました。※最後から2番目のデザイン
しかし、制作はここで終わりませんでした。あるとき、クライアントのともこさんから「2階の広間を強調したい!」とのご連絡をいただきました。実は私自身も、その頃のデザインにどこか味気なさを感じていたところでした。そこで、2階の広間を紹介するセクションをトップページに加え、全体の構成をもう一度見直すことに。上部の濃い青のセクションは逆三角形に。その下に続く広間のセクションには、三角形の形を取り入れました。上の逆三角形には「和」の趣を。下の三角形には、屋根のような「家」の温もりを。二つの形を組み合わせることで、ページ全体に新しい表情が生まれました。これは、私自身もなかなか気に入っている部分です(笑)。※最終デザイン
最後から2番目のデザイン
最終デザイン
私は、創造というものは、必ずしも何もないところから生まれるわけではないと思っています。そこには、すでにある色や形があり、使える技術があり、そして何より、お客様の思いや要望があります。それらは一見すると、自由な創作を制限する「条件」のようにも見えるかもしれません。けれど、私にとっては、その条件こそが創造の出発点です。テニスにコートやルールがあるように、限られた世界の中だからこそ生まれる表現がある。今回ののれんも、看板の色も、そしてともこさんからいただいたご要望も、すべてがこのデザインを形づくる大切な要素になりました。自分一人の頭の中だけでは、きっとこの形には辿り着かなかったでしょう。そう考えると、デザインとは、自分の感性を一方的に押し出すことではなく、目の前にあるものとの対話なのかもしれません。
もちろん「わかりやすさ」も意識
さて、ここまでデザインについていろいろと語ってきましたが、ホームページには、もう一つ大切な役割があります。それは、「必要な情報を、必要としている人へきちんと届けること」です。熱海銀座 和べんち。さんには、休憩をするための設備やサービスが豊富に揃っています。時間制の休憩プランをはじめ、ドリンクや軽食、Wi-Fi、電源など、さまざまな過ごし方に対応できる場所です。だからこそ、初めて訪れる方にも、どのようなサービスがあり、どのプランを選べばよいのかが、すぐに伝わるようにしたいと考えました。
料金については、各プランを表にまとめ、内容を比較しやすい形にしています。まあ、表にするというのは、ごく一般的な方法なのですが(笑)。
制作してみて。
今回の制作を通して、改めて感じたことがあります。それは、デザインのヒントは、案外、最初からそこにあるということです。看板の色。店内の畳。入口に掛けられたのれん。お店に流れる空気や、そこに集う人たちの思い。そうしたものを一つひとつ見つめ、拾い集め、組み合わせていく。私が行ったのは、突き詰めれば、そういうことだったのかもしれません。もちろん、その過程では迷うこともあります。つくっては眺め、何かが違うと感じては、またつくり直す。けれど、そうして試行錯誤を重ねているうちに、ある瞬間、ばらばらだった要素が一つにつながることがあります。「ああ、これだ。」その感覚が、私は好きです。私にとって創造とは、無から有を生み出すことではありません。すでに存在しているものに、自分の感性や技術を掛け合わせ、これまでとは違う形で、新しい価値を生み出すこと。そして、できあがったものが、誰かの役に立ったり、誰かの心を少しでも動かしたりするのであれば、これほど嬉しいことはありません。今回のホームページも、そんな一つの作品になっていれば幸いです。
最後に、少しだけお店のお話を。和べんちさんは、熱海にある、素敵な素敵なお休み処です。私はすでに、お魚定食とおでんをいただいております。これがまた、実においしい。お腹が満たされると、不思議と心まで温かくなるものです。制作を通してお店の魅力に触れてきましたが、今度は一人のお客さんとして、またふらりと立ち寄りたいと思っています。そして、またお魚を食べたい(笑)。ともこさん、このたびは大切なお店のホームページを任せていただき、本当にありがとうございました。皆さまも熱海を訪れた際には、ぜひ一度、和べんちさんでひと休みしてみてください。旅の途中に、ちょっとした「和」の時間を。
熱海銀座和べんち